自分の爪について

 僕は自分の爪の形が好きではない。特に指の爪である。かといって、足の爪に自信があるわけでもない。ただ、人前に晒す機会が多いか少ないかの問題である。僕の爪は深爪で横に平べったく、表面には縦に筋が入り、でこぼこしている。

 爪を気にしだした高校生くらいの頃に、これは父親譲りのものであると知った。母親の爪は綺麗とは言えないが少なくとも縦の方向に長い。兄弟の中では僕の爪だけが父親似で、弟たちは皆、母親のような普通の爪、少なくとも爪の形に悩まされることは今後ないであろう爪を授かったようだ。

 運悪く父親の爪に似てしまったという遺伝的でどうしようもない要因もあるが、思い返してみれば、幼少期の癖が深爪に関しては影響している気がする。僕は爪切りをしない子供だった。正確には、爪切りを使って爪を切らない子供だった。爪を噛むという癖は世間でも見聞きするが、僕の場合は爪をむしるということを日常的にしていた。どういうことかというと、爪をむしったことのある人ならばお分りいただけると思う。むしりたい爪の端にもう一方の手の親指の爪をちょうど爪同士がクロスするように引っ掛けて切り込みをいれる。あとは端から両面テープの紙部分を剥がすようにスーッとむしり取るだけである。いつでもどこでも爪切りを使うことなく爪の処理ができるので、当時の僕は爪切りの必要性を全く感じなかった。

 この手法の悪いところは、切断ではなくむしりとる、もしくはめくっているので、切り口が綺麗な弧を描かず見栄えが悪いということである。それに加え、うまくむしらないと、爪上部の白いところだけでなく、爪と指との癒着部までめくれてしまうという難点がある。かなり痛い。爪をもいでいるわけだから。この行為の繰り返しのせいで爪と指の癒着部面積が減少していき、深爪になっていたのだろう。それでも小学生高学年まではこの癖とともに生活してきた。

 爪切りで爪を切ることを覚えてからも、爪切り自体は好きになれず伸ばしに伸ばしてから切っていた。しかし、長い爪にともなう弊害として爪が折れるというのに何度か困らされ、それが嫌で今では爪は短く保つよう気付いた時に切るようにしている。携帯用爪切りも持ち運んでいるため、幼少期と同じくいつでもどこでも爪を切ることができる。

 爪切りを駆使することで晴れて文明人の仲間入りを果たしたとはいえ、自分の爪の形に不満があることには変わりない。僕の爪はあまりジロジロみないようにしていただきたい。