オムライスについて

 母の料理の腕は、そこそこ美味しく食べられるが、これでお金はとれないだろうな、というくらいの一般主婦平均レベルだ。そんな母の手料理を10年以上食べてきたが、稀にその平均レベルを少し越すくらいの一品が食卓に並ぶことがある。その一つがオムライスだ。さすがにこれで一食500円はとれないけど、きっと友人たちの母よりは美味しく作れるはずだ。試しに食べに来てくれてもいい。

 母のオムライスには転換機があった。それまではチキンライスに、しっかり熱の通した薄焼き卵をのせただけの素朴なものだった。当時の僕もオムライスに一目置くことはなかった。それがいつからか、うっすら半熟の卵をのせるようになった。僕が母のオムライスを好きになったのはそれからだった。やはり、オムライスはふわふわ玉子に限る。

 最も一般的なオムライスといえば、薄焼き卵でチキンライスをしっかり包んだものだろう。包む手間がめんどくさかったのか僕の家では包まれたものは出されたことがない。フライパンの上で円盤型にされた玉子をチキンライスにのせるだけだ。だから、昔ながらの洋食店でしか包まれしオムライスを食べたことがない。オムライスも日々進化していて、少し前には、ふわふわの玉子を割ったらトロトロの中身が溢れ出すなんてのも流行ったりした。パフォーマンスの部分が大きいと思うけど、あれを作ってあげたら女の子には喜ばれるんだろうなって思ったりもする。とにかく、ふわふわとろとろの玉子を使ったオムライスが世に誕生したことには感謝しかない。

 

 そもそも、チキンライスと玉子の組み合わせを定着させたのは素晴らしい偉業と言ってもいい。白米だとやはり味気ない。バターライスやピラフを使うのをお店でも見たことがあるけど、やはりスタンダードなオムライスにはチキンライスが一番だ。チキンライス以外のライスたちが活躍できるのは、オムハヤシ、オムカレー、デミグラスソースがけ、といったソースの主張が強目のときだけだ。

 オムライスには当たり前のようにケチャップがかけられる。僕はそれがうまく受け入れられなかった。だって、大量のケチャップで炒めたチキンライスの上に、玉子を挟んで、またケチャップを上のせするなんて。ケチャップどれだけ好きなんだ。しかし、僕以外の家族は誰もその違和感を共有してくれなかった。いまひとつ物足りない、あと一歩の家庭的オムライスを食べ続け、ある日やっと救世主が現れた。冷蔵庫からいつものようにケチャップを取り出そうとしたとき、隣のマヨネーズが目に入った。ケチャップと同じ容器の形をしているし、試してみようと一口分だけかけて口に運んだ。その瞬間、今までの違和感が消え去り、マヨネーズこそオムライスにかけるにふさわしいと確信した。玉子の甘さと、マヨネーズのまろやかさの中にある酸味とがマッチした。この大発見以来、ケチャップがけのオムライスを家で食べた記憶はない。

 ところで、オムライスってどこが発祥なんだろう、オランダとかかな、なんて考えていたんだけど、調べてみたら日本だった。オムレツ+ライスの和製英語だった。洋食屋で出てくるのに、オムライスよ、君は日本生まれだったんだね。