連想について

 朝、気持ち良く起床できた日は幸運である。それが休日なら尚良い。それが晴天ならもうその日は最後まで過ごさずとも良い日認定証書授与である。そんな日にはいつもはコーヒーだけで済ます朝食もせっかくだから食べようという気持ちになる。ということで今朝は最寄りの喫茶店で朝食と美味しいコーヒーを頂いてきた。

 喫茶展は四人掛けテーブル席ひとつ、二人掛けテーブル席三つ、カウンター席5つ程度のこじんまりとしたところだ。それに加えテレビが一台置いてある。僕と友達は二人席に腰掛け、僕がテレビに背を向けて座っていた。テレビでは大谷翔平がすごい!というような内容をやっていた、ざっくり言うと。野球に関しては、というかスポーツ観戦に関しては全くの門外漢であるため、大谷翔平がメジャーに行ったということでさえ、その時知った始末だ。大谷翔平の活躍を讃える報道をBGM代わりに、ホットドッグを食べた。ホットドッグを食べ終わる頃には大谷翔平の報道も終わり、次のコーナーに移っていた。百貨店で北海道物産展が絶賛開催中というものであった。僕は北海道出身でもなければ、北海道に強い憧れがあるわけでもなく、まして北海道に行ったことすらない。しかし、僕の頭は勝手に反応して、箪笥の奥の奥の、もう使うこともない高校時代の体操服並みにしっかりしまい込まれた昔の記憶を呼び起こしてきた。

 僕が反応したワードは「北海道」ではなく「北海道物産展」そのものであった。一度だけ北海道物産展で売っているお弁当を食べたことがある。僕自身が買いに行ったわけではなく、当時交際していた女の子がわざわざ買ってきてくれたのだ。僕が食べたいと言って買ってきてくれたのか、彼女が食べたくてついでに僕の分も買ってきてくれたのか。記憶は曖昧である。大学の授業期間内だったこともあり、僕らはそれを食堂の隅の方のテーブルで食べた。それがどこのテーブルでどの席に座ったかは、未だに覚えている。しかし、何の弁当を食べたか、何の話をしながら食べたか、何年生の頃の話なのか、それらは全く思い出せない。北海道物産展とその女の子と大学の食堂の隅の席だけが繋がっていた。

 連想は方向によって、強度が異なるというのが今日の気づき。AからBは連想されるが、BからAは出て来にくい、みたいなのがあると思う。日常生活ではあまり出番のない「北海道物産展」というキーワードから、食堂のあの席で一緒にいた思い出は出てきても、(一緒にお弁当を食べた記憶がしまわれている状態で)あの席を見て北海道物産展のことを思い出すことはなかっただろう、ということ。連想の不可逆性とでも言っておこうか。

 しかし、その不可逆性も、片方からの繋がりが弱いから生じてしまうことで、一度、繋がってしまえば、反対方向への連想強度は増強されるものだと思う。繋がりを認識してしまったことで、今まで食堂の席をみても何も想起されなかったのが、北海道物産展と彼女を想起させる逆トリガーとなってしまったかもしれない、まだわからないが。

 この件を忘れたころ、食堂のその席を通りかかって、ふと北海道がでてきたらそういうことだろう。