温水洗浄便座について
温水洗浄便座と聞いてすぐに何のことか分かる人は、今まででトイレと接する機会があった人だろう。ウォシュレットと聞けば、ほぼ全ての日本人が共通の概念として頭に思い浮かべられるはずだ。ただウォシュレットはTOTOが販売している温水洗浄便座の商品名である。ツナ缶をシーチキンと言い、ステイプラーをホッチキスと言うのと同じことである。とは言いつつも、僕も日常会話ではウォシュレットで通している。改めて考えてみれば、洗浄用ノズルと便座は一体化しているので便座と名付けるのは間違ってはいないのだが、どうもノズル=ウォシュレットと僕の頭には植えつけられているので、便座という名前には違和感がありウォシュレットの方がしっくりくる。それがLIXIL製のものでもPanasonic製のものでも、誰が困るわけでもなかろう。ただ今回は便宜上、温水洗浄便座として書くことにする。ちなみに、ウォシュレットは”Letʼs wash”という駄洒落らしいのだがいい響きだと思う。
今、あなたがいる場所から一番近いトイレに向かったとする。恐らくそのトイレには温水洗浄便座が設置してあるだろう。今や、温水洗浄便座の普及率はかなり高いものになっていて、新しめのトイレなら確実に洗浄機能がついている。にも関わらず、温水洗浄便座は使わない及び使ったことがない派が一定数いるのはどうも不思議でならない。そう、僕は温水洗浄便座肯定派である。
僕と温水洗浄便座の初めての共同作業は中学生の頃だった。小学生高学年で引越しをして、新居には温水洗浄便座付きトイレがあったため存在自体は知っていた。しかし、数年間は顔見知りの状態が続いた。温水洗浄便座も僕と同じくシャイだったのだろう。彼女から「私を使ってみてよ」と言われることもなく僕から「あなたを使わせてくれないか」と切り出すこともなかった。ある日、友人との会話で温水洗浄便座の話題になり、「あいつ使ったことないの?めちゃくちゃいいぜ。もったいない」という言葉で僕は彼女を意識せざるを得なくなった。帰宅後、意を決してトイレへ向かう。僕の気持ちは既に固まっていた。用を足し、おしりと書かれたボタンに目をやる。もう迷いはなかった。ボタンを押すとウィーンという機械音がトイレの中で鳴り響き、数秒後には僕と彼女はランデブーしていた。彼女から発射された温水は僕のおしりを優しく包み込んだ。まるで彼女は、無視し続けた僕を許してくれているようでもあった。あの初めての感動となぜ今まで使ってこなかったのかという後悔を忘れることはない。それ以来、僕は彼女の虜だ。
この記事を読んでいる温水洗浄便座否定派のあなた。もう一度、彼女たちのことを見直して、しっかり向き合ってみてはいかが。